イモリ類は国内には3種類しか生息していません。沖縄以南や奄美諸島に分布する「イボイモリ」「シリケンイモリ」そして今回ご紹介する『アカハライモリ』です。
沖縄や北海道を除く国内全域、都内でさえ見られた身近な生き物でしたが、農薬や生息地の消失により見かける機会が減りつつあります。
その反面「居るところには大量に居る」そんな生き物です。
特徴的な赤いお腹・トカゲの様な容姿・素手で捕まえられるほどおっとりした性格と、何とも変わった両生類ですが、そこに惹かれる飼育者も後を経ちません。
そんな変わった水生動物こと「アカハライモリ」その飼育方法を中心に、特徴や生態・飼育にかかる費用やお値段・飼育の注意点についてご説明していきます。
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〈目次〉
アカハライモリの特徴・生態とは? |
アカハライモリの飼育方法 |
アカハライモリにかかる飼育費用・価格は? |
アカハライモリの注意点 |
まとめ |
目次
アカハライモリの特徴・生態とは?
アカハライモリは日本にしか生息しない“日本固有種”です。
その昔は低地の水田から山あいの湿地帯まで広く生息していましたが、高度経済成長期の農薬利用・宅地開発等が重なった上に、護岸工事などで繁殖場所を追われ、その姿は減りつつあります。
安価で販売されていますが、埼玉県ではその捕獲が全面禁止されており、2006年には環境省レッドリストにより「準絶滅危惧種」にカテゴライズされてしまいました。
本州・四国・九州や近隣諸島に生息しますが、住む地域によりアカハラの斑紋が個性的な特徴を持ち、地域個体群として重要視されています。
残念ながら無責任な放流・遺棄が続き、国内種による「遺伝子汚染」が近年、深刻な問題になっています。
そんなアカハライモリですが、ペットショップではかなり容易に手に入れる事が可能です。
全てがそうではありませんが、どうやら生息地からゴッソリ採取してしまう卸問屋が多いらしいので、飼育を始めたら一生付き合う覚悟を決めて、不用意な遺棄は行わないで下さい。
ただフィールドに出ると、居るところには大量に居る、居ないところには一匹たりともいない、そんな生き物です。
条件が整えば大量に発生する…そんな感が否めません。
彼らが最もよく知られている特徴は、名前にもある赤いお腹でしょう。
面白いことにアカハライモリはそのお腹の模様で産地(生息地域)がほぼ判別できます。
赤い模様もマダラになったり、ほぼ黒一辺倒だったり、時には全身真っ赤な個体も出現するほどです。
通常野生動物はその大きさに寿命が比例しますが、アカハライモリは約10cmの小型種でありながら、最大25年もの飼育下長寿記録があります。
尾を持つ両生類を『有尾類』と呼びます。この有尾類は冷血動物でありながら、その大多数が極めて低い水温・気温下でしか生き残れません。
ただアカハライモリは四季のある日本固有種らしく、寒暖差にも対応できる数少ない例外種です。
温暖な季節にはゆったりと水面下を移動し、派手な運動は滅多に行いません。
素手で簡単に捕まえられるほど、野生動物としては運動能力が欠如しています。
冬場は水辺近くの陸地、落ち葉や岩の下などで冬眠をします。
この冬眠は、カタツムリや昆虫類の様にその代謝の一切を止める「完全冬眠」ではなく、寒さのために代謝が鈍くなるだけです。北海道のエゾヒグマに近いものですね。
この様な極端な代謝の低さが、長寿の要因とされています。
生活域は湖沼・水田・山間部の水溜り等、生息地の止水域の広範囲を活動場所とします。
河川などの流水域には生息していません。
オタマジャクシ・小型水生昆虫・ミミズ・サンショウウオの幼生や卵などを主食としています。
繁殖は冬眠明けの春にかけて行われ、生息域では夜間に水中を埋め尽くすほど、多数のイモリが見られます。
オスはメスの鼻先に、頭部と尾を突きつけ小刻みに振動させる「求愛行動」を取ります。
この時に繁殖を誘発するフェロモンを分泌するのです。
求愛が成功するとオスは精子が詰まった「精子嚢」という袋をメスの前に落とし、メスは総排泄口から吸収する体内受精を行います。
受精卵は直径数mm程と極小で、メスは水草の葉にくるまるよう丁寧に、後脚で1卵づつ産みつけていきます。一度の産卵数は100個ほどになります。
1〜2週間ほどで孵化した幼生は、ウーパールーパーの様な「外鰓」を持ち、ミジンコやイトミミズなどの小さな生き物を食べ、すくすくと育ちます。
2〜3ヶ月後にはすべての脚が生え揃い、外鰓も消失し上陸します。
上陸後の数年間、幼体は雑木林など湿り気のある陸地で暮らした後、再び水場に戻ります。
この様にアカハライモリはかなり複雑なライフサイクルを営んでいるんですね。
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アカハライモリの飼育方法
アカハライモリの飼育はかなり容易です。
野外採取・ショップ購入どちらでも構いませんが、性格はかなり温和なのですぐに環境慣れし餌付いてくれます。
飼育ケージもあり合わせのもので充分です。
もちろん爬虫類用ケージや水槽等の方がメンテナンスが楽ですが、タッパーや衣装ケースなども活用できます。
水漏れがしない事・有害物質を含まない事…これがケージの基本です。
小型種なので水槽規格で言えば40〜45cm前後の広さで事足ります。
寧ろケージの要は「蓋」と「通気性」です。
アカハライモリは脱走の名人であり、どんな壁面でも登ることができ、蓋がないと呆気なく脱走してしまいます。
一旦脱走をすると早期に発見しない限り、水分不足であっという間に死に至ってしまいます。
そして四季に対応してるとはいえ、極端な高温下では確実に衰弱してしまいます。
網状の蓋を用意するか、蓋をくりぬき園芸用のネットなどに置き換えて下さい。
水槽補修用のシリコン材などを使うと、うまく加工できますよ。
水深は浅くても深くても構いません。ただ肺呼吸をするので呼吸スペースは必ず確保しましょう。
アカハライモリはマツモやホテイアオイなど水草が生い茂る水場を好みます。
シェルター代わりにもなる上に呼吸の足掛かり、果てには産卵床にもなるので、水草を入れた方が安定した飼育に繋がりますしイモリ自身のストレス軽減にもなります。
亀用の浮島や大きめの発泡スチロールなども、水深が深い場合には使用できます。
水深が浅めの場合はケージ半分を、砂利などでスロープ状にし、陸地を作ります。
意外に頻繁に陸地に上がるので、登りやすいに越したことはありません。
フィルター等は一時凌ぎに過ぎません。
たまに投げ込み式フィルター等で水換えを怠るケースがありますが、これが失敗例として顕著に見られます。
「水換えに勝る水質維持はなし」とよく言われます。
フィルターの殆どが魚類準拠に設計されています。裏を返せば他の水棲動物には、さほど有効ではありません。
どうしても時間が取れない方は、大きめのケージで充分な水量を維持して下さい。
糞を見つけ次第、こまめに網で掬えば水換えの頻度を抑える事ができます。
餌は人工飼料ならたまに生き餌を、人工飼料に絵付かない個体ならレパートリーを増やします。
特に生き餌の単一食は危険で、栄養バランスが極端に偏り、重金属等に汚染されていれば目も当てられません。
生き餌の種類は多ければ多いほど、アカハライモリの健康に繋がります。
生き餌と言っても、常に活アカムシや活イトメを用意する必要もないでしょう。
例えばアサリや刺身の切れ端を、ピンセット等で小刻みに揺らせば食いついてくれます。
各種冷凍飼料も有効です。
人工飼料はテトラ社のレプトミンを愛用する飼育者が多数です。
アカハライモリにとっての必須栄養素が全て含まれており、犬で言うドッグフードの様なものです。
別種のイモリになりますが、私はこれだけで10年ほど飼育を続けられているので、まず問題はないでしょう。
注意点は秋口、やや涼しさを感じ始めたら、必ず浅めの水深に切り替え陸地を作ってあげましょう。
アカハライモリは基本的に陸上で越冬するので、本格的な冬の到来前に陸地を用意する必要があります。
元々浅めの水深で飼育している方は、そのままの環境を維持して下さい。
春頃になりアカハライモリの目が覚めると、もしかしたら産卵に持ち込めるかも知れませんよ。
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アカハライモリにかかる飼育費用・価格は?
アカハライモリ自体の価格は300〜500円ほどと非常に安価です。
生態そのものの価格より、初期投資・継続費用は4〜5倍かかる…とよく言われますが、イモリ類に限ってはその定義は当てはまりません。
初期に必要な飼育用品は「ケージ」「底砂」「水草」「蓋」…くらいでしょう。
今までお話しした様にイモリ類、特にアカハライモリには専用機器というものがほぼ存在しません。
熱帯魚ならサーモスタット&ヒーター、爬虫類なら紫外線灯、犬や猫なら予防接種・登録費…etc.とそれなりの値段がかかります。
その分アカハライモリなどのイモリ類は、飼育方法や用具を模索して育てていく幅そのものを楽しむ類の生き物と言えるでしょう。
具体的な飼育用品の価格ですが、ケージは水槽単体で2,000〜3,000円ほどかかり、爬虫類用ケージでしたら最低でも7,000〜10,000円と高額になります。
もちろん衣装ケースや大きめのタッパーの方が安くなり、1,000円台を目安にして下さい。
底砂は500〜600円、水草は飼育スタイルによりますが一巻き100円程なので、育成も加味すると500円が最大値と言えます。
金属ネットで作られた蓋は4,000円〜5,000円と高額ですが、プラケースは蓋付きで1,000円札でお釣りがくる値段です。
これらから算出すると初期投資の最大価格が約16,000円、最低価格が約2,000円台です。
改めて算出してみましたが、飼育者の好みによりかなりピンキリですね。
あくまで参考意見ですが、長年イモリ類を飼育した立場から見ると、アカハライモリの初期投資は2,000円でも充分過ぎると感じます。
因みに継続費用は、国産種なので光熱費がかからない事を前提にすると、こちらも餌代のみと安価になります。
先ほどお話ししたテトラ社のレプトミンは200gで約700円、冷凍アカムシなどは1シートが100〜200円程です。
生き餌は単価が高くサイズに比例しますが、活イトメならおちょこ一杯が100〜200円程となります。
水田のある田舎なら餌代はほぼかかりませんが、都会にお住まいの方ならそうはいきませんよね。
代謝の低いアカハライモリは週に2〜3度の給餌で充分なので、継続費用の最大値が約2000円、最低値が田舎住まいならタダもしくは人工飼料の700円と言ったところです。
この様に改めて費用について考えると、かなりアンバランスな結果になってしまいました。
お金をかけるだけが飼育の主ではありませんが、大切に買えば買うほど青天井に価格は膨れ上がります。
他にも見栄えをよくするために蛍光灯をつけている飼育者や、野外のビオトープで飼育を行っている方も実際にいます。
上記の飼育費用・価格はあくまでアカハライモリ飼育の最低限の値です。
大切に飼い込み知見を広げた上で、新しい発見があったら、積極的に取り込んでみて下さい。
下記の記事では飼育に必要となる用具の選び方からオススメがあります。
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アカハライモリの注意点
あまり知られていませんが、アカハライモリの最大の注意点はその「毒」です。
その皮膚はフグ毒で有名な『テトラドトキシン』を含有しています。
とは言え実際に心配することは全くありません。
テトラドトキシンは300℃の高熱でなければ分解しない厄介な毒ですが、江戸時代にアカハライモリは滋養強壮の珍味として幅広く食されています。
漢方として用いる地域もあるほどです。
ここまでの食文化にも関わらず、アカハライモリを食べて死亡した人間はいません。
理由として、そもそもの含有量が人の致死量の1〜3mgに遥かに達しません。
また生物濃縮により獲得する類の毒なので、そもそもテトラドトキシンを産み出すビブリオ菌が発生しなければ、その毒性は発現しないのです。
ただ万が一のため、アカハライモリに触れた手は入念に洗浄する癖をつけましょう。
触れた手で眼を掻くと、ごく稀に炎症を起こすそうです。
次に気を配るのは複数飼育をする時です。
特にアカハライモリは幼生時に頻繁に共食いをします。
成体でも口に入るサイズだと、あっという間に片方が食べられてしまうのです。
幼生時の共食いは有尾類では多く見られ、必然的な行為とも言われていますが、飼育下で無理に共食いをさせる必要はありません。
もちろん成体も同様です。
アカハライモリのサイズ差には、くれぐれも気をつけて下さい。
そして繰り返しますが、うっかりミスで済まされないのが「脱走死」です。
そのおっとりとした性格に油断しがちですが、アカハライモリは以外にアクティブな面があります。
本種を始め有尾類は皮膚呼吸にも強く依存するため、その皮膚は水分を逃さない様な特殊な構造をしています。
この皮膚により、ツルツルしたケージ壁面に張り付き、呆気なくよじ登るのです。
よじ登った先には当然ながら水分は一切ありません。その結果干物状態で見つかるという悲しい結果に繋がります。
餌やりの際やケージ内を掃除した直後の瞬間を逃さず、忽然と姿を消すので、アカハライモリの世話をした後に「蓋をする」という癖をつける様にして下さい。
滅多に起こりませんが、蓋を閉める際に四肢を挟み欠損してしまう事例も、ごく少数発生します。
その様な時は慌てる必要は一切ありません。
薬を使いたがる方が多いのですが、アカハライモリの皮膚には鱗がなく、返って逆効果になってしまいます。
実はアカハライモリは再生医学の実験動物として、研究分野で頻繁に用いられています。
四肢くらいなら、しばらく経てば自然に再生してしまうのです。
欠損部位に水カビなどが発生しない様、普段より頻繁に水返し、餌のペースをやや早めてみましょう。
十中八九、元通りの脚が再生するはずです。
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まとめ
アカハライモリの飼育方法を主体に、本種にかかる費用や価格、その特徴や生態、注意点について説明させて頂きました。
アカハライモリは両生類・有尾類の中では、その生態はもちろん、飼育の際の懐事情にも優しい生き物です。
残念ですが近年はめっきり野生種を見かける機会が乏しくなりました。
もし野外で出会ったら、必要以上に捕獲しないでリリースし、自然の中でのんびりと暮らせる気遣いをかけてあげて下さい。